仕事でうつ病と診断されたあなたへ。キャリアが怖い…でも、もう限界。休職も退職も『逃げ』じゃない、未来を守るための選択肢

2025年10月19日

「うつ病ですね」

静かな診察室で、医師の言葉がまるで他人事のように響きました。頭が真っ白になり、渡された診断書を持つ手が、小さく震えていたのを覚えています。

仕事のプレッシャー、鳴りやまない通知音、積み重なるタスク。毎朝、鉛のように重い体を引きずって満員電車に乗り込み、会社のデスクに着く頃にはもう、すべてのエネルギーを使い果たしている…。そんな日々が、私の心を静かに蝕んでいたのです。

医師は「少し休みましょう」と優しく言ってくれましたが、私の頭の中は「休む」という選択肢を全力で拒絶していました。

（心の声）「休む？冗談じゃない。このプロジェクトはどうなる？チームにどれだけ迷惑がかかる？一度レールを外れたら、もう二度と戻れないんじゃないか…。『あいつは使えない』『メンタルが弱い』そんなレッテルを貼られて、キャリアが終わってしまう…」

周りの期待に応えなければ。弱音を吐いてはいけない。そう自分に言い聞かせ、私は診断書をカバンの奥にしまい込み、翌日も何食わぬ顔で出社しました。それが、さらなる絶望への入り口だとも知らずに…。

この記事は、かつての私のように、うつ病と診断されながらも「休む」という決断ができず、キャリアと心の健康の狭間で立ち尽くしているあなたのために書いています。これは「逃げ」の話ではありません。あなたの未来を守るための、戦略的な「撤退」と「再起」の物語です。

なぜ、あなたは「休む」という決断ができないのか？

心が悲鳴を上げているのに、ブレーキを踏めない。その背景には、あなたを縛り付けるいくつかの「呪縛」が存在します。

呪縛1：真面目さゆえの「罪悪感」

責任感が強く、真面目な人ほど「自分が休んだら周りに迷惑がかかる」という罪悪感に苛まれます。しかし、考えてみてください。あなたが無理を続けた結果、心身が完全に壊れてしまったら、それはもっと大きな迷惑をかけてしまうかもしれません。自分を大切にすることは、結果的に周りを大切にすることにも繋がるのです。

呪縛2：キャリアへの「焦燥感」

「同期はどんどん出世していくのに…」「ここで立ち止まったら、もう追いつけない…」

キャリアに空白期間ができることへの恐怖は、計り知れません。しかし、人生は短距離走ではなく、マラソンです。ペースを落としたり、給水所でしっかり休んだりする選手だけが、最後まで走りきることができます。キャリアの一時停止は、人生のゲームオーバーではありません。

呪縛3：周囲の目という「見えない鎖」

「うつ病だと知られたら、どう思われるだろう」「弱い人間だと思われるのが怖い」

残念ながら、日本の社会ではまだ精神疾患への偏見が根強く残っています。しかし、あなたの価値は、他人の評価で決まるものではありません。そして、本当にあなたを大切に思っている人たちは、あなたが元気になることを何よりも望んでいるはずです。

家の土台が腐っているのに、壁紙を張り替えますか？

ここで、一つ例え話をさせてください。

あなたの心と体を「家」だとします。仕事の過度なストレスは、家の見えない土台を蝕む「シロアリ」のようなものです。あなたは今、シロアリが発生していることに気づきながらも、「見た目が悪いから」と壁紙を綺麗に張り替えること（目先の仕事をこなすこと）に必死になっていませんか？

いくら壁紙を張り替えても、土台が腐っていては家はいつか必ず崩れ落ちます。本当にやるべきなのは、一度立ち止まり、専門家の力を借りてシロアリを徹底的に駆除し、土台を修復すること。つまり、仕事というストレスの根源から物理的に離れ、心を休ませることなのです。

あなたの未来を守るための2つの選択肢【休職 or 退職】

「休む」と決断した先には、大きく分けて「休職」と「退職」という2つの道があります。どちらが正解ということはありません。あなたの状況や価値観に合わせて、冷静に比較検討することが重要です。

項目	休職のメリット	休職のデメリット
身分	会社に籍を置いたまま治療に専念できる	いずれ復職するというプレッシャーを感じる場合がある
経済面	傷病手当金を受給できる場合が多い	給与は支払われない（無給が一般的）
復帰	復職のハードルが比較的低い（リワーク支援など）	元の職場環境に戻るため、再発のリスクも考慮が必要
精神面	「戻る場所がある」という安心感がある	会社との定期的な連絡が負担になることがある

項目	退職のメリット	退職のデメリット
身分	会社との関係を完全に断ち、治療に集中できる	「無職」という状況に不安を感じる可能性がある
経済面	失業保険を受給できる場合がある	傷病手当金より受給額や期間が短くなる場合がある
復帰	心機一転、新しい環境で再スタートできる	転職活動で病歴をどう説明するか考える必要がある
精神面	ストレスの根源から完全に解放される	社会との繋がりが途絶え、孤独を感じる場合がある

まずは主治医やカウンセラー、信頼できる家族や友人に相談し、一人で抱え込まないでください。会社の産業医や人事部に相談窓口があれば、活用するのも一つの手です。

お金の不安を解消する。あなたが使える「お守り」

休むことを考えたとき、真っ先に頭をよぎるのはお金の不安ではないでしょうか。しかし、日本には、いざという時にあなたを守ってくれる公的な制度があります。これらは、あなたがこれまで頑張って社会に貢献してきたからこそ使える、正当な権利です。

傷病手当金: 健康保険の被保険者が、病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。休職中の生活を支える大きな柱になります。
失業保険（雇用保険）: 退職した場合、次の仕事が見つかるまでの間の生活を支える制度です。うつ病など正当な理由のある自己都合退職の場合、給付制限期間なく受給できる可能性があります。
自立支援医療制度: 心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。通院治療費の負担を大きく減らすことができます。
障害年金: 病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取れる年金です。うつ病も対象となります。

これらの制度の詳細は、全国健康保険協会（協会けんぽ）のウェブサイトや、お近くのハローワーク、市区町村の役所の窓口で確認できます。知っているだけで、心の負担は大きく変わるはずです。

よくある質問（FAQ）

Q1. 休職中は、どのように過ごせばいいですか？

A1. 主治医の指示に従うことが大前提ですが、基本は「何もしない」ことを自分に許可してあげてください。仕事のことは忘れ、心と体を休ませることに専念します。散歩をする、好きな音楽を聴く、美味しいものを食べるなど、自分が心地よいと感じることを優先しましょう。

Q2. 復職や転職の際、うつ病だったことは不利になりますか？

A2. 不安に思うお気持ちはよくわかります。しかし、今は働き方も多様化し、メンタルヘルスへの理解も少しずつ進んでいます。正直に話すかどうかは状況によりますが、大切なのは「今は回復し、安定して働く意欲がある」ことを伝えられることです。休職期間を「自分を見つめ直し、今後の働き方を考える貴重な時間だった」とポジティブに捉え直すこともできます。