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# 観光協会の仕事は地味?リアルな1日とやりがいを元職員が告白「キラキラの裏で、私は辞めかけた」

「地域の魅力を、自分の手で世界に発信する仕事です!」

説明会で聞いた、あのキラキラした言葉。胸を躍らせて飛び込んだ観光協会の世界。地元が好きで、人が好き。イベントを企画して、たくさんの笑顔に会える。そんな理想を思い描いていました。

でも、現実は——。

パソコンの画面に映るのは、無数のエクセルシートと格闘する自分の姿。鳴りやまない電話、複雑な補助金の申請書類、そして関係各所との終わらない調整。

「私のやりたかったことって、これだっけ…?」

華やかなイベントのポスターの横で、ホコリをかぶった段ボールを運びながら、胸に芽生えた小さな、でも確かな違和感。それはやがて、「こんなはずじゃなかった」という焦りと後悔に変わっていきました。

この記事は、かつての私のように、観光協会の仕事に憧れを抱きつつも、そのリアルな姿が見えずに不安を感じているあなたのために書いています。

イベント企画やSNS発信といった「華やかな表舞台」の裏側にある、圧倒的に地味で、でも本当に大切な「泥臭い舞台裏」。その両方を知ることで、あなたは観光協会という仕事の本質を理解し、心から「この仕事がしたい」と思えるか、冷静に判断できるはずです。

私が一度は辞めかけたこの仕事の、本当のやりがいを見つけるまでの物語に、少しだけお付き合いください。


憧れと現実のギャップ:私が直面した「見えない仕事」の壁

入社して数ヶ月。私が主に担当していたのは、来る秋祭りの準備でした。もちろん、企画会議でアイデアを出すような「華やかな」時間もありました。しかし、業務時間の9割を占めていたのは、想像とはかけ離れた「地味な」作業だったのです。

「何でも屋」の現実と心の声

毎日、朝から晩まで続くのは、こんな仕事でした。

  • 終わらない調整業務: 出店者、警備会社、音響業者、地元商店街、警察、消防署…数十の関係者すべてに電話をかけ、メールを送り、一つひとつの要望と条件を調整する。誰かのOKは、誰かのNG。板挟みになりながら、落としどころを探す毎日。
  • 補助金申請という名のパズル: イベント予算の源泉は、国や自治体からの補助金。そのためには、何十ページにも及ぶ事業計画書と、1円単位まで突き詰めた収支計算書を作成しなくてはなりません。「この事業が、いかに地域に貢献するか」を、決められたフォーマットと堅い言葉で証明し続ける作業は、創造性とは程遠いものでした。
  • 泥臭い力仕事: イベントで使う何百脚もの椅子を倉庫から運び出し、長机を並べ、テントを立てる。華やかな当日の裏には、汗だくになって働く職員の姿があることを、この時初めて知りました。

私の心は、静かに悲鳴を上げていました。

> 「もうダメかもしれない…。」 パソコンの画面に並ぶ数字の羅列を眺めながら、何度そう思ったことか。「地域を盛り上げたい」という想いだけで、この膨大な事務作業の山を越えられる気がしませんでした。

>

> 「なぜ私だけが…。」 SNSで楽しそうにイベントの様子を投稿する友人たちの姿が、ナイフのように胸に突き刺さる。キラキラした世界への憧れは、いつしか劣等感に変わっていました。「私の仕事は、誰の笑顔にも繋がっていないんじゃないか…」そんな無力感に、押しつぶされそうでした。

イベント企画という「点」しか見ていなかった私にとって、それを支える無数の「線」と「面」の仕事は、ただただ苦痛でしかありませんでした。


なぜ花は咲くのか?私が気づいた「土づくり」の重要性

そんなふうに思い悩んでいたある日、ベテランの先輩職員に、思い切って「仕事が地味で、やりがいを感じられないんです」と打ち明けました。すると先輩は、呆れるでもなく、静かにこう言ったのです。

「君の仕事は、美しい庭園づくりに似ているんだよ」

美しい花を咲かせる、見えない仕事

先輩はこう続けました。

「多くの人は、満開に咲き誇る色とりどりの花、つまり華やかなイベントやSNSの投稿に目を奪われる。そして、『自分もあんな綺麗な花を咲かせたい』と、花の種を次々と蒔こうとする。でもね、どんなに素晴らしい種を蒔いても、土壌が痩せこけていたら、美しい花は決して咲かないんだ」

「花を咲かせるために本当に重要なのは、目に見えない土の中の作業。石を取り除き、雑草を抜き、栄養たっぷりの肥料を混ぜ込む『土づくり』だよ。この地味で骨の折れる『土づくり』こそが、君が今やっている補助金申請や関係者調整、日々の事務作業なんだ。」

この言葉は、私の頭をガツンと殴られたような衝撃でした。

  • 痩せた土壌(不安定な財政基盤)では、イベントは開催できない。
  • バラバラな土壌(連携のない地域)では、魅力的な企画は生まれない。

私が「地味だ」と切り捨てていた仕事こそが、地域の魅力を咲かせるための、最も重要で、最もクリエイティブな仕事だったのです。痩せた土壌を放置したまま花の種を蒔き続けても、やがて庭は荒れ果て、何も咲かない不毛の地になってしまう。

本当に美しい庭園を造る庭師は、花の華やかさではなく、土の豊かさにこそ心を配る

その日から、私の仕事に対する見え方が180度変わりました。エクセルの数字は、地域の未来を支える「栄養」に見え、関係者との電話は、豊かな土壌を作るための「対話」に聞こえたのです。

地域の笑顔は、エクセルとハンコの山から生まれる。 この言葉が、私の新しい指針となりました。


【完全解剖】観光協会職員のリアルな1日と業務内容

「土づくり」の重要性を理解したところで、ここからは観光協会の仕事の全体像を具体的に見ていきましょう。ある職員のモデルスケジュールと、華やかな業務・地味な業務のリアルな中身を徹底解説します。

ある職員の一日のモデルスケジュール

観光協会の仕事は、一日の中でも目まぐるしく役割が変わります。まさに「コンテキスト・スイッチング(思考の切り替え)」の連続です。

時間業務カテゴリー具体的な業務例発揮される主要スキル
8:30-9:30朝の管理業務と準備レンタサイクル予約確認、メールでの問い合わせ返信、案内所のレジ準備、チームでの朝礼細部への注意力、文書作成能力
9:30-12:00デスクワーク(土づくり)補助金実績報告書の作成、次回イベントの企画書作成、関係各所への調整連絡(電話・メール)分析的思考、企画・立案能力
12:00-13:00昼休憩スタッフ間で交代で休憩
13:00-15:00窓口対応(接客)観光案内、地図の提供、宿泊施設の斡旋・予約代行、手荷物預かりサービス、イベントチケットの販売対人コミュニケーション能力、傾聴力
15:00-17:00フィールドワーク・外回り町内施設を訪問し情報交換、イベント会場の現地調査、SNS投稿用の写真撮影関係構築能力、情報収集能力
17:00-17:30一日の締めと翌日準備スタッフとの終礼・情報共有、翌日のスケジュール確認、事務所の片付け・施錠チームワーク、計画性

※イベント前や繁忙期は、これに加えて残業や土日出勤が発生します(振替休日の取得が一般的です)。

業務内容の二面性:表舞台とそれを支える裏方

観光協会の業務は、大きく「表舞台の華やかな活動」と「それを支える不可欠な裏方業務」に分けられます。そして最も重要なのは、この2つが常につながっていると理解することです。

華やかな活動(表舞台の業務)それを支える不可欠な裏方業務
✨ インフルエンサーを起用した新規SNSキャンペーンの立ち上げ💻 マーケティング予算を確保するための、詳細な事業計画書を伴う補助金申請手続き
🎆 数千人規模の季節の祭典(例:花火大会)の開催📞 数十社に及ぶ関連業者(警備、設営、音響等)との調整、行政からの開催許可取得、保険手続き
📖 美しいフルカラーの観光パンフレットの発行🤝 50以上の地元店舗や施設への取材・掲載許諾交渉、写真素材の収集と使用権の確認、印刷会社との折衝
🚣 新規体験プログラム(例:シーカヤックツアー)の開発・提供📄 安全管理マニュアルの作成、インストラクター資格の確認、保険加入、レンタル機材の調達とメンテナンス
📺 メディア(テレビ、雑誌)の取材誘致とアテンド✉️ 取材候補地のリストアップと事前交渉、撮影スケジュールの調整、プレスリリースの作成と配信

このように、人々が目にする華やかな成果はすべて、地道で緻密な「土づくり」の上に成り立っているのです。この構造を理解すれば、補助金申請書を完璧に書ける職員が、バズるSNS投稿を作れる職員と同等、あるいはそれ以上に組織にとって価値があることがわかるはずです。


それでも、この仕事が好きな理由:やりがいと大変な点のリアル

仕事のリアルな姿を理解した上で、最後にこの仕事がもたらす「やりがい」と、乗り越えるべき「大変な点」について、私の経験から正直にお話しします。

この仕事でしか味わえない「やりがい」

  • 地域への貢献と誇り: 自分の仕事が、愛する故郷の活性化に直接繋がっている。この実感は何物にも代えがたいモチベーションになります。「ありがとう」という住民の方からの声が、何よりの勲章です。
  • 直接的な感謝と達成感: 自分が企画したイベントで、観光客が心から笑っている姿を目の当たりにした時の感動は、一生忘れられません。「来てよかった」という一言が、すべての苦労を吹き飛ばしてくれます。
  • 創造性を発揮する喜び: 地域の埋もれた魅力を掘り起こし、新しいツアーや商品をゼロから生み出すプロセスは、まさにクリエイティブそのもの。自分のアイデアが形になる喜びは格別です。
  • 人との深い繋がり: 行政、事業者、住民…様々な立場の人々と「地域を良くしたい」という一つの目標に向かって協力する中で生まれる絆は、人生の財産になります。

乗り越えるべき「大変な点」

  • 不規則な勤務体系: 世間が休みの時が、私たちの繁忙期。土日祝日や大型連休はほぼ出勤になるため、友人や家族と予定を合わせにくいのは事実です。
  • 多様な利害関係者の調整役: それぞれの立場や意見が異なる人々の間に立ち、合意形成を図るのは非常に骨が折れます。時には厳しい意見を受け、精神的に辛い場面もあります。
  • 「何でも屋」であることのプレッシャー: マーケティングから会計、接客、力仕事まで、本当に幅広いスキルが求められます。一つの分野の専門家になりたい人には、もどかしさがあるかもしれません。
  • 成功がもたらす新たな課題(オーバーツーリズム): 観光客が増えすぎた結果、交通渋滞やゴミ問題、騒音などで住民の生活を脅かしてしまうことも。成功の裏で生まれる新たな問題への対応も、私たちの重要な責務です。

この仕事の「やりがい」と「大変な点」は、表裏一体です。地域や人々と深く関わるからこそ、喜びも大きい代わりに、責任や苦労も大きくなるのです。


よくある質問(FAQ)

Q1. 観光協会で働くのに、特別な資格は必要ですか?

A1. 必須の資格は少ないですが、普通自動車運転免許は多くの協会で求められます。また、インバウンド対応のため語学力(英語、中国語など)や、旅行業界の経験を示す旅行業務取扱管理者、経理の知識を示す簿記などがあると有利になる場合があります。最も重要なのは、コミュニケーション能力と地域への情熱です。

Q2. 公務員とは違うのですか?給料や待遇は安定していますか?

A2. 多くの観光協会は一般社団法人や財団法人であり、職員は公務員ではありません。雇用形態は正規職員、契約職員、臨時職員など様々です。給与や待遇は各協会の規定によりますが、一般的に公務員に準じた基準を設けているところが多く、安定していると言えるでしょう。ただし、昇給などは事業の成果に左右されることもあります。

Q3. これからの観光協会に求められるスキルは何ですか?

A3. 従来の地域知識やホスピタリティに加え、今後はDMO(観光地域づくり法人)という経営視点が重要になります。具体的には、以下のスキルがますます求められます。

  • デジタルマーケティング能力: SNS運用だけでなく、データ分析に基づいた戦略的な情報発信ができる。
  • データ分析能力: 観光客の動態や消費額などのデータを分析し、次の施策に活かす。
  • プロジェクトマネジメント能力: 予算、スケジュール、関係者を管理し、事業を確実に遂行する。

あなたは、どんな庭師になりたいですか?

観光協会の仕事は、決してキラキラした部分ばかりではありません。むしろ、その大部分は地味で泥臭い「土づくり」の連続です。

しかし、その地道な作業の先に、人々の笑顔という美しい花が咲くことを、私は知りました。スポットライトを浴びるのは一瞬。でも、その舞台を支え、豊かな土壌を耕す時間こそが、この仕事の本当の価値であり、誇りなのです。

私たちは観光地の案内人ではない。地域の未来への、案内人だ。

この記事を読んで、あなたが観光協会の仕事のリアルな全体像を理解し、それでもなお「この土を耕したい」と感じてくれたなら、こんなに嬉しいことはありません。

さあ、あなたは、どんな花を咲かせる庭師になりたいですか?その答えを見つける旅に、今、一歩踏み出してみてください。

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