毎日が地獄…「死ね」「人殺し」の声が心を蝕む夜勤明けの絶望
夜勤明け、疲労困憊でロッカーの鏡に映る自分の顔を見たとき、思わず息をのんだ。目の下にはくっきりとしたクマ、そして左腕には、昨日ついたばかりの青々しい痣。これは、認知症のAさんからのものだ。「人殺し!」「あんたなんかいらない!」…あの声が、まだ耳の奥でこだましている。
「なぜ私だけがこんな目に…」
頭では、Aさんが病気だから、仕方ないのだと理解している。認知症の行動心理症状(BPSD)だ。わかっている。でも、心が、感情が、もう受け付けない。毎日毎日、人格を否定されるような言葉の暴力と、時に身を硬くするような身体的暴力にさらされ、私の心はまるで千切れかけた糸のようだ。
「もうダメかもしれない…」
この仕事が好きだったはずなのに。誰かの役に立ちたいと、あの頃の私は目を輝かせていたのに。今では、出勤のたびに胃がキリキリと痛み、夜は悪夢にうなされる。辞めたい。この一言が喉まで出かかっても、またすぐに飲み込んでしまう。「認知症の患者さん相手に辛いから辞めるなんて、看護師としておかしいんじゃないか?」そんな罪悪感が、私をがんじがらめに縛り付けている。この見えない鎖が、一番つらい。
あなたの痛みは「異常」ではない。それは「人間」としての自然な反応だ
「心が受け付けない」「辞めたい」と感じるあなたは、決して「おかしい」わけではありません。それは、極限状態に置かれた人間として、あまりにも自然な心の叫びです。看護師は超人ではありません。感情を持った生身の人間です。日々、命と向き合い、他者の苦しみに寄り添う中で、心身が消耗するのは当然のこと。特に、認知症患者さんからの暴力・暴言は、その本質が「病気によるもの」と理解していても、直接的に人格を攻撃されるような感覚に陥りやすく、精神的なダメージは計り知れません。
なぜ「仕方ない」だけでは乗り越えられないのか?
- 人格の否定: 「死ね」「人殺し」といった言葉は、その背景がどうであれ、人間としての尊厳を深く傷つけます。
- 身体的苦痛: 痣が残るほどの暴力は、身体だけでなく心にも深い傷を残します。自己防衛本能が働き、恐怖や怒りを感じるのは当然です。
- 孤立感と罪悪感: 「私だけが…」という孤立感や、「辞めたいと思うのは看護師失格では?」という罪悪感が、さらにあなたを追い詰めます。
これらの感情を「仕方ない」の一言で片付けてしまうのは、まるで火事の原因を放置したまま、目の前の火を水で消し続けるようなもの。一時的に鎮火しても、根本原因が解決されない限り、火は何度でも燃え上がり、あなたは疲弊し続けるでしょう。本当に必要なのは、火事の原因である「漏電箇所」を特定し、元栓を閉める電気技師のような視点です。
隠れた「漏電箇所」を特定し、心を守る具体的な一歩を踏み出す
あなたの苦しみの「漏電箇所」は、どこにあるでしょうか?それは、患者さんのケア方法かもしれませんし、職場のサポート体制、あるいはあなた自身の心の持ちようかもしれません。決して一人で抱え込まず、具体的な行動を起こすことが、この苦しい状況を乗り越える第一歩です。
まずは「心のSOS」を発信する勇気を
- 信頼できる同僚や先輩に相談する: 一人で抱え込まず、状況を共有するだけで心が軽くなることがあります。具体的なアドバイスが得られることも。
- 上司や管理職に状況を報告する: 認知症患者さんの行動特性やあなたの苦痛を具体的に伝え、担当患者の変更やケアチームの見直しを相談しましょう。職場のハラスメント相談窓口の利用も検討してください。
- 産業医やカウンセリングの活用: 専門家による心のケアは、客観的な視点と具体的な対処法を提供してくれます。病院や施設の産業医、または外部のメンタルヘルス専門機関を利用しましょう。
認知症ケアの専門性を高め、適切な距離感を学ぶ
- 認知症ケアの研修やセミナーに参加する: BPSDのメカニズムや、具体的なコミュニケーション技術、非薬物療法の知識を深めることで、対応の選択肢が増え、患者さんとの関わり方が変わる可能性があります。
- 多職種連携を強化する: 医師、薬剤師、リハビリテーション専門職、ソーシャルワーカーなど、多職種と連携し、患者さんの状態を多角的に評価し、個別ケアプランを見直すことでBPSDの軽減に繋がることもあります。
あなた自身の未来を守るキャリアプランを考える
- 休職や部署異動の検討: 心身の限界を感じたら、一時的に距離を置くことも大切な選択です。
- 転職も視野に入れる: 看護師としてのキャリアは多様です。現在の職場で解決が難しい場合、他の医療機関、介護施設、訪問看護、企業内看護など、あなたに合った環境を探すことも、決して「逃げ」ではありません。
FAQ:よくある疑問と心の解放
Q1: 認知症患者さんからの暴言や暴力は、看護師の「宿命」なのでしょうか?
A: いいえ、決して宿命ではありません。認知症ケアは専門性の高い分野であり、適切な知識と技術、そして何よりも十分なサポート体制が必要です。個人の忍耐力だけに依存するものではありません。
Q2: 辞めたいと思うのは、私が看護師として「未熟」だからでしょうか?
A: そんなことはありません。むしろ、自分の心身の限界を感じ、それに向き合おうとしているあなたは、非常に誠実で責任感の強い看護師です。未熟さではなく、過酷な環境が原因です。
Q3: 転職したら、また同じような問題に直面するのではないかと不安です。
A: その不安は当然です。しかし、転職活動を通じて、職場の雰囲気、認知症ケアへの取り組み、スタッフサポート体制などを事前にしっかり確認することができます。同じ失敗を繰り返さないための情報収集が重要です。
あなたの心に、新しい風を吹き込む時
「死ね」「人殺し」という言葉の嵐の中で、あなたは本当に勇敢に立ち向かってきました。しかし、その勇気を、自分自身を傷つけることに使ってはいけません。あなたの心は、癒され、守られるべき大切なものです。「仕方ない」という見えない鎖を断ち切り、新しい一歩を踏み出すことは、決して「おかしい」ことではありません。それは、あなたが「人間」として、そして「プロフェッショナル」として、自分自身と向き合う、最も尊い選択なのです。あなたの心に、新しい風を吹き込み、本来の輝きを取り戻す時が来ています。
