「今日も一日、立ちっぱなしで足がパンパン…」
「レジ打ちと品出しの繰り返し、なんだか最近やりがいも感じないなぁ…」
これは、1年前の私の口癖でした。
スーパーでパートを始めて3年目のある日、夜、家に帰って靴を脱いだ瞬間、ズキンと走る痛みに思わず声が出ました。むくんだ足首を見下ろしながら、「この先もずっと、この繰り返しなのかな…」と、ぼんやり考えていたんです。
そんなある日、ショッピングセンターで見かけた一枚の貼り紙。
「洋服お直しスタッフ募集・未経験歓迎」
「座り仕事だし、なんだか専門職っぽくてかっこいいかも…」
でも次の瞬間、不安がこみ上げてきました。
「ミシンなんて家庭科の授業以来さわってないし、不器用な私には無理よね…」
「それに、『お直しの仕事はきつい』って話も聞くし…」
悩んで悩んで、それでも思い切って応募した私。
あれから1年。今では「洋服お直し屋さん」で働いています。
この記事では、実際にスーパーのパートから転職した私だから分かる、洋服お直しの仕事のリアルをすべてお話しします。
スーパーのパートで心が折れた日
転職を決意したのは、ある「事件」がきっかけでした。
その日は土曜日。お客様でごった返すレジで、私はいつものように笑顔で対応していました。そこへ、50代くらいの女性が返品を希望して来店。レシートを確認すると、購入から2週間以上経過していて、規定上お受けできない状態でした。
「申し訳ございません。レシートの日付が…」
そう切り出した瞬間、目の前の景色が変わりました。
「は?あなた、私を嘘つき呼ばわりするの?!」
大声で怒鳴られ、周囲のお客様の視線が一斉に私に集中します。動悸が激しくなり、頭が真っ白になりました。店長を呼び、なんとか対応が終わったものの、その日はずっと手が震えていました。
家に帰ってから、鏡に映った自分の顔を見て愕然としました。
目の下のクマ、こわばった表情、そして何より「疲れ果てた40代の女性」が、そこにいたんです。
「私、このままでいいのかな…」
その夜、ベッドに横になりながら、涙が止まりませんでした。
「立ち仕事じゃないパート」を探し始めた私
次の日の休憩時間、同僚に愚痴を聞いてもらいました。
「もう嫌だ…別の仕事探そうかな」
「でも、私たちの年齢で未経験OKなんて、なかなかないよね」
「せめて座り仕事だったら、足腰の負担は減るんだけど…」
そんな会話をしながら、スマホで求人サイトを眺めていたとき、目に飛び込んできたのが「洋服お直し・未経験歓迎・座り仕事」の文字でした。
「これだ…!」
でも、すぐに不安の波が押し寄せてきました。
「ミシンなんて、中学の家庭科で下糸を絡ませて先生に怒られて以来だよ…」
「お直しって、お客様の大切な服にハサミを入れるんでしょ?失敗したら弁償とか…?」
「『お直しの仕事はきつい』って、ネットで見たような気がする…」
怖くなって、その日は応募ボタンを押せませんでした。
それでも応募を決めた「ある言葉」
数日後、思い切って友人に相談してみました。
すると、意外な答えが返ってきたんです。
「え、いいじゃん!私の知り合い、お直し屋さんで働いてるけど、すごく楽しそうだよ。『ありがとう』って直接言ってもらえるのが嬉しいって」
「でも、未経験で大丈夫なのかな…」
「大丈夫大丈夫!最初はみんな初心者でしょ。それに、スーパーでも接客してたんだから、お客様対応は慣れてるじゃん」
その言葉に、少し勇気が湧いてきました。
「このまま何もしなければ、1年後も同じ毎日。でも今動けば、何か変わるかもしれない」
その夜、震える手で応募ボタンを押しました。
面接で聞いた「きつい」の正体
面接当日、緊張しながら店舗を訪れた私に、店長さんはこう言いました。
「正直に言いますね。お直しの仕事は『きつい』部分もあります。でも、それはスーパーのレジとは違う種類の『きつさ』なんです」
洋服お直しの仕事で「きつい」と感じる3つのポイント
店長さんが教えてくれた、お直しならではの「きつさ」がこちら。
1. 身体的な負担の違い
- 長時間同じ姿勢でミシンに向かうため、首・肩・腰への負担がある
- 細かい作業で眼精疲労を感じることも
- ただし、足腰の疲れはほぼゼロになる
2. 精神的なプレッシャー
- お客様の大切な服にハサミを入れるため、「失敗できない」という緊張感がある
- 一度切ったら元に戻せないという責任の重さ
3. コミュニケーションの難しさ
- 「いい感じに」「ちょっとだけ」といった曖昧な要望を形にする技術が必要
- お客様の「理想」を正確に汲み取る力が求められる
「なるほど…確かに大変そう」
でも、店長さんは続けてこう言ったんです。
「でもね、重いカゴを運んだり、一日中立ちっぱなしで足が棒になったりすることはありません。『全身の疲労』から『集中力を使う専門職の疲労』に変わる、と考えてください」
その言葉を聞いて、私の中で何かが変わりました。
「私が本当に辛いのは、足腰の痛みと、心が疲れること。だったら、座って専門的なスキルを身につける方が、私には合ってるかも」
「未経験でも大丈夫」は本当だった
採用が決まり、初出勤の日。
正直、ドキドキしすぎて前日は眠れませんでした。
「やっぱり、ミシンの使い方なんて覚えられないかも…」
「失敗して、お客様の服をダメにしたらどうしよう…」
でも、実際に研修が始まると、驚くほどスムーズだったんです。
未経験者に優しい理由① 最初は「裾上げ」だけ
先輩から教わったのは、まず「パンツの裾上げ」のみ。
実は、お直しの仕事で一番多い依頼がこれで、全体の約7割を占めるんだそうです。
「最初はこれだけ完璧にできればOK。ジャケットの肩幅詰めとか難しいやつは、慣れてからで大丈夫だから」
そう言われて、肩の力が抜けました。
未経験者に優しい理由② 練習用の生地で何度も繰り返せる
いきなりお客様の服を任されるわけではなく、練習用の生地で何度も何度も縫う練習をさせてもらえました。
最初は糸が絡まったり、縫い目がガタガタだったり…。
でも、先輩が根気強く教えてくれて、1週間後にはまっすぐ縫えるようになっていたんです。
「すごい!もう一人でできるよ!」
その言葉が、どれだけ嬉しかったか。
初めて「ありがとう」をもらった日
研修開始から2週間後、初めて実際のお客様の服を任されました。
60代くらいの女性が持ってきた、黒いパンツ。
「3センチ短くして欲しいの」というシンプルな依頼でした。
採寸して、ミシンに向かい、丁寧に丁寧に縫い上げました。
手が震えるほど緊張していたのを、今でも覚えています。
そして数日後、お客様が取りに来られた時。
「わあ、ぴったり!すごく綺麗に仕上げてくれてありがとう!」
その言葉を聞いた瞬間、目頭が熱くなりました。
スーパーのレジでは、「ありがとう」と言われても、それは「商品を売ってくれてありがとう」であって、「私」に対してではなかった。
でも、お直しの仕事では、「あなたの技術のおかげで助かった」という、直接的な感謝を受け取れるんです。
これが、私が求めていた「やりがい」だったんだ。
お直しの仕事、一日の流れ【リアル体験版】
実際に働いてみて分かった、お直し屋さんのパートの一日をご紹介します。
午前中:接客と採寸
9:00 出勤・開店準備
店内の掃除、ミシンの点検をして開店。
10:00〜12:00 お客様対応
「このスカートの丈を短くしたい」
「ジーンズのウエストがきつくて…」
こんな風にお客様の要望を聞きながら、採寸して伝票を作成。
スーパーのレジとは違い、一人ひとりとじっくり向き合えるのが新鮮でした。
午後:ミシン作業に集中
13:00〜17:00 縫製作業
午前中に預かった服を、伝票通りに仕上げていきます。
最初は裾上げばかりでしたが、今ではウエスト詰めや、簡単なほつれ直しも任せてもらえるようになりました。
座って作業できるので、足の疲れはほぼゼロ。
確かに肩はこりますが、立ち仕事の足腰の痛みに比べたら、私には圧倒的にラクでした。
夕方:仕上げと引き渡し
17:00〜18:00 最終チェック・接客
アイロンをかけて、最終チェック。
お客様が取りに来られたら、試着していただいて、喜んでもらえたらそれで一日の疲れが吹き飛びます。
残業はほとんどなく、時間通りに上がれるのも、主婦にとっては本当に助かっています。
働き方が選べるのも魅力
さらに驚いたのが、自分の性格に合わせて働き方が選べるということ。
| 働き方のタイプ | 特徴 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|
| お店で働く(フロント) | ショッピングセンターなどで接客から縫製まで担当。お客様と直接話す機会が多い。 | 接客が好き!「ありがとう」を直接聞きたい人 |
| 専門工場で働く(バック) | お店とは別の場所で縫製に専念。難易度の高いお直しを担当。接客は一切なし。 | 一人で黙々と作業に集中したい人 |
私は今、お店で働いていますが、「接客も作業も両方楽しめる」のが自分に合っていると感じています。
気になる時給は?スーパーより上がった?
正直な話、お金のことも大事ですよね。
私の場合(東京都内・パート)
- スーパー時代: 時給1,100円
- お直し転職後: 時給1,250円
月収にして約2万円アップしました。
地域や店舗にもよりますが、東京都心部の相場は時給1,163円〜1,500円。
未経験からでも、今の収入を維持、あるいはそれ以上にできる可能性は十分あります。
さらに、経験を積めば正社員登用の道もあり、年収アップを目指すこともできます。
転職して変わった3つのこと
① 足腰の痛みから解放された
夜、家に帰っても足がパンパンじゃない。
これだけで、生活の質が劇的に変わりました。
② 「やりがい」を感じられるようになった
お客様から直接「ありがとう」と言われる喜び。
自分の技術で誰かを笑顔にできる達成感。
「ただ時間を切り売りしてる」感覚がなくなりました。
③ スキルが身についた
裾上げから始まり、今ではウエスト詰めやファスナー交換もできるように。
「専門技術を持っている」という自信が、私を変えてくれました。
それでも「大変だな」と感じる瞬間
もちろん、良いことばかりではありません。
- 目の疲れは、やっぱりあります(ブルーライトカットメガネで対策中)
- お客様の曖昧な要望を形にするのは、今でも難しい
- 繁忙期(卒業・入学シーズン)は、少し忙しくなります
でも、それでも私は「転職して良かった」と心から思っています。
まとめ:「きつい」の質が変われば、人生も変わる
ここまで、スーパーのパートから洋服お直しの仕事に転職した私のリアルな体験をお話ししてきました。
洋服お直しの仕事、5つのポイント
- 「きつい」の質が違う
立ち仕事の全身疲労→座り仕事の集中疲労へ - 未経験でも本当に大丈夫
最初は裾上げだけ。丁寧に教えてもらえる - 働き方が選べる
接客メインor作業集中、自分の性格に合わせられる - やりがいが大きい
お客様からの直接の「ありがとう」が毎日の励み - スキルが身につく
専門技術で、自信とキャリアを積める
あなたへ:その一歩が、未来を変える
もしあなたが今、
- 「今のパート、もう限界かも…」
- 「ただ時間を売るだけじゃなくて、何かスキルを身につけたい」
- 「誰かに感謝される仕事がしてみたい」
そう感じているなら。
「不器用だから…」「未経験だから…」なんて、諦めないでください。
私も、あなたと同じように不安でした。
でも、あの日応募ボタンを押したことが、私の人生を変えてくれました。
まずは、近所のショッピングセンターや求人サイトで、「洋服お直し 求人」を検索してみてください。
その小さな一歩が、あなたにとっての「天職」に繋がるかもしれません。
新しい自分に会いに行きましょう。
